せた。
「そうです。大学の基礎医学で仕事をしている者です。天狗猿……イヤ。鬼目教授に聞いて御覧になればわかるです。……そんな事よりも早くこの女の手当をした方がいいでしょう。今、処方を書いて上げますから……誰か紙と鉛筆を持っておらんかね」
「ハ。……コ……ここに……」
と云ううちにドッジの運転手が、わななく手で差出した手帳の一枚を破いた吾輩は、サラサラと鉛筆を走らせた。
「早くこの薬を買って来たまえ。間に合わないと大変な事になるぞ」
「……か……かしこまり……」……ました……と云わないうちに運転手はエンジンをかけたままの運転台に飛乗った。アッという間に全速力《フルスピード》をかけて飛出した。
チャッカリ小僧
「……ウヌ……逃げたナ……」
と云ううちに交通巡査も、物蔭《ものかげ》に隠しておいた自働自転車を引ずり出して飛乗った。爆音を蹴散《けち》らして箱自動車《セダン》の跡を追った。見る見るうちに街路《まち》の向うの……ズウット向うの方へ曲り曲って見えなくなってしまった。
呆気《あっけ》に取られて見送っていた野次馬連は、そこでやっと吾に帰ったらしく、顔を見合わせてゲラゲラ
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