。それじゃ妾たちもその事件の中で一役買っているので御座いますか」
「もちろんだとも。しかもその筋書の中でも一番重要な役廻りを受持って、これから吾輩を主役としたスバラシイ場面を展開すべく、タッタ今活動を始めたばかりなんだ。モウ逃げようたって逃げる事が出来なくなっているんだ」
「まあ。否《いや》で御座いますよ先生、おからかいになっちゃ……気味の悪い……」
「イヤ。断然、真剣なんだ。まあ聞け……コンナ訳だ」
 吾輩はそこで今朝《けさ》からの出来事を出来るだけ詳しく話して聞かせた。
「どうだい。みんなわかったかい。だから詰まるところこうなるんだ。今度の事件は一切合財、みんな偶然の出鱈目《でたらめ》ばかりで持ち切っているんだ。吾輩が断髪令嬢の御秘蔵の犬と知らずに掻《か》っ払《ぱら》ったのも偶然なら、その犬を断髪令嬢の恋敵《こいがたき》の医学士の所へ持って行って売付けたのも偶然だ。しかもその犬が世界に二匹と居ない名犬だったのも偶然なら、その犬が肺病の第三期にかかったのも偶然。そこへ羽振医学士が又、偶然に来合わせて、吾輩が振りまわす拳固《げんこ》を高い鼻の頭で受け止めたのも偶然だ。つまるところ、そこ
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