かノー……。
 フーム。有名にも何にも「鬚野《ひげの》博士」の名前を知らない者は日本中にタダの一人も居ない。吾輩が日本に存在しているために英国も、米国も、露西亜《ロシア》も、日本に挑戦し得ないでいる。日露戦争以後に吾輩がドンナ科学的の発明を日本の軍部に提供して、ドンナ新鋭の武器を内々で取揃えさしているか判明《わか》らないから……成る程のう……それは事実だ。毛唐《けとう》の奴等もよく知っとるのう。日露戦争の時にヨッポド懲《こ》りたと見えてアラユル密偵《スパイ》を使って吾輩の身辺《みのまわり》を探らせているらしいてや。事によると現在、海軍で作りよる一人乗、魚形水雷《ぎょけいすいらい》ボートが吾輩の発明である事を探り出しとるかも知れんのう。ナアニ、饒舌《しゃべ》っても大丈夫だよ。毛唐が真似して作っても乗る奴が一匹も居る気遣いがないし、防禦《ぼうぎょ》の方法が全く無いんだからね。時速百二十|節《ノット》、航続距離二万|海里《かいり》と云ったら大抵わかるだろう。その動力が問題なんだからね。その動力が将来の日本軍のタンク、飛行機に十倍以上の能率を上げさせるんだから恐ろしいだろう。日本国民たるもの枕
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