てみたいわねえ」
「ウフ。乗せてやるから一緒に来い」
「あたしも乗りたいわ」
「ウム。みんな来い。モウ着物は乾いたろう」
「アラ、厭な先生、乾《ほ》してんのは普段着よ。晴着はチャント仕舞ってあるわよ」
「ヨオシ。出来るだけ盛装して来い。貞操オン・パレードだ」
 女たちが鬨《とき》の声を揚げて喜んだ。
「鶴子さん。アンタはね、洋装がいいわ。出来るだけ毒々しくお化粧しておいでよ。伯爵様にお目見えするんですから……」
「アラ、女将さん。あたし怖いわ」
「怖いことあるもんですか。その方がいいのよ。妾《わたし》に考えがあるんですから……」
 鶴子というのは一番最初に吾輩に口を利いた一番若い美しい娘であった。
「まあ先生。ソンナに酔払って大丈夫?」
「大丈夫だとも。酔っている真似は難かしいが、酔わない真似なら訳はないんだ。キチンとしていれあいいんだからね」

     禿頭変色

 吾々一行の姿を他人が見たら何と云うだろう。
 葬式自動車みたいな巨大な箱車の中《うち》に、令嬢だか、女給だか、籠抜娼妓《かごぬけしょうぎ》だか、マダム・バタフライだか、何が何やらエタイのわからない和洋服混交の貞操オン・パレードがギッチリ鮓詰《すしづ》めになっているその中央に、モダン鍾馗《しょうき》大臣の失業したみたいな吾輩が納まり返っているんだから、何の事はない一九三五年式大津絵だろう。
 その一団を乗せた流線型セダンが音もなく辷《すべ》り出すと、吾輩は急に睡くなってグーグーと居睡りを始めた。自分の鼾《いびき》の音が時々ゴウゴウと聞こえる。女たちのクスクス笑う声を夢うつつに聞いている中《うち》に自動車がピッタリと止まったので、吾輩は慌てて女たちの膝を跨《また》いで一番先に飛降りて扉をパタンと締めた。
「お前たちはこの中で暫く待ってろ。吾輩が談判の模様によって呼込んでやるから……」
 と云い棄てるなりフラフラしながら玄関の石段を上った。待っていたらしい唖川家の家令だか三太夫だか人相の悪い禿頭《はげあたま》が、吾輩の姿を見ると眼を剥《む》き出して睨み付けた。睨み付けるのも無理はない。オリイブ色の声なんかどこを押したって出そうな面構えじゃない。たしかに人間が違っているに相違ないのだから……。
「貴方は……何ですか……」
「老伯爵閣下に会いに来た人間だ」
「……ナニ……」
 と云うなり禿頭が腕をまくった。柔
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