山飛んで来たな。今年の正月、あの夢を本当にしてあの樫の木の虫を助けておりゃあ、今頃はあんな蝶になって飛びまわっているかも知れない。その代りおれの方は日干しになって死んでいるだろう。馬鹿馬鹿しい事だ。こっちの生命《いのち》と虫の生命《いのち》と換えられるもんか。どれ一つ炭を焼き初めようか。今度のは特別に虫の穴が多かったようだぞ」
と云いながら炭焼竈に火を入れましたので、やがて煙が濛々《もうもう》と大空に向って湧き出しました。
神様の勘太郎はまだ夢を見ているのか、それとも本当の事なのかさっぱり訳がわからなくなりました。
底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※底本の解題によれば、初出時の署名は「海若藍平《かいじゃくらんぺい》」です。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月31日公開
2006年5月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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