しょう。しかも、その中に閃《ひら》めき、にじみ、ほのめいて全体を蔽い、引き締めている同君独特の持ち味に到っては、今から既に(敢えてそう云います)鬱然たる大樹の萌芽をあらわしているばかりでなく、その画風の健康さ、境界の深大さが、一つの目に見えぬ力となって画面に盛り上り、跳ねかえっているのがアリアリと看取されるのであります。同君が、これだけの内容を熟させるべく自己を鍛い上げるには、なかなか容易の業《わざ》ではないでしょう。
しかも同君は、この抱負を自覚しているようです。同君が外界の事象と四つに取組むと同時に、こうした自己の内部のものと必死に取組み合って、蒼白い、必死の膏血《こうけつ》を滴《た》らし続けていることがその絵によって窺われますから……。
小柄な、真剣な、力強い、負けじ魂の固《かたま》りのような人です。そうして蒼白く冷笑しているんです。
人間としては何でもない人のようですが、芸術家としては実に恐ろしい人です。いくら賞めても罵倒しても、依然として冷笑しているのですから。
底本:「夢野久作全集11」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年12月3日第1刷発行
入力:柴田卓治
校正:しず
2001年7月23日公開
2006年2月28日修正
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