いから是非どうか一つ請合って下さい」
てんで見かけに似合わずペコペコ頭を下げて頼むんです。
「私は亜米利加中に別荘を持っているのだから万一ここで貴方《あなた》の仕事が気に入ったら、まだ方々で、お頼みしたいのだ。貴方に一生涯喰えるだけの賃金を上げる事が出来るのだ」
と顔を真赤にして揉み手をしいしいペコペコお辞儀をするんです。カント・デックは前からチャンと研究して、あっし[#「あっし」に傍点]を口説《くど》き落す手を考《かんげ》えていたらしいんですね。仕事の出来る日本人なら金を呉れて頭を下げさえすれあコロリと手に乗って来るものと思っていたらしいんですが、コイツが生憎《あいにく》なことに見当違いだったのです。イクラ「わんかぷ、てんせんす」だって時と場合によりけりです。支那人《チャンチャン》と違って日本人には虫の居どころって奴がありますからね。
あっし[#「あっし」に傍点]はデックの話を聞いている中《うち》にピインと来ちゃいました。さてはあのチイ嬢《ちゃん》の色目は喰わせものだったのか、この毛唐人が俺をここまで引っぱり込むために囮《おとり》に使ってやがったのか、この野郎、俺をいい二本棒に
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