る店の広間へ、縦横十文字に並んだ長椅子に凭《よ》りかかった毛唐と女唐《めとう》とが、フロック張りの番頭や手代の鳴らすレコードを知らん顔をして聞いていたようです。
その横ッチョの木煉瓦張《もくれんがば》りの通路《とおりみち》をやはり女に手を引かれながら通り抜けて、奥の行当りのドアを抜けるとヤット肩幅ぐらいの狭い廊下に出ました。その廊下は向う下りになっていて、黒いマットが一面に敷いて在るために足音も何もしないまま地下室へ降りて行くようになっていたらしいんですが、その中《うち》に右に曲ったり左に折れたりして扉《ドア》を三つか四つぐらい潜って、もうだいぶ下へ降りたナ……と思ったトタンに廊下の天井に点《つ》いていた電燈が突然《だしぬけ》に消えちゃって真暗闇《まっくらやみ》になっちまいました。それがチイ嬢《ちゃん》の顔の見納めだったんで……今度目、見た時は夕刊の新聞で手錠をかけられた笑い顔で、その次に見たのはデックと並んで死刑の宣告を受けている写真ニュースの横顔でしたがね。
もちろんソン時のあっし[#「あっし」に傍点]にゃそんな事がわかりっこありゃせん。神様だって知らなかったんですから……それ
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