の中へ投渡《なげわた》されちゃったんです。
あっし[#「あっし」に傍点]を受取ったデックは喰い付いたり引っ掻いたりするあっし[#「あっし」に傍点]の手と足を背後《うしろ》から束《たば》にしてギューと掴み締めてしまいました。それから何か英語で二言三言云ったと思うと毛ムクジャラの菜ッ葉服が、トロッコの上の女の身体《からだ》を抱き上げて、何の雑作もなく傍の肉挽器械の中へ投込みました。
……ヘエ。その時に肉挽き器械の中から聞えて来た恐ろしい声を、あっし[#「あっし」に傍点]は一生涯忘れないでしょう。フイ嬢《ちゃん》はまだ生きてたんです。多分、日本人のあっし[#「あっし」に傍点]を救《たす》けるためにギャング仲間を裏切った廉《かど》で、デックの配下《てした》に拷問されて気絶していたものなんでしょう。
あっし[#「あっし」に傍点]もそのまんま気絶していたようです。
「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」
てお呼び声がどこからか聞えるように思ってフイッと眼を開《あ》いてみるてえと、コンクリート作りの馬|小舎《ごや》みてえに狭い藁束《わらたば》だらけの床の上へ投げ出されているのに気が付きました。
片隅の扉《ドア》の前に置いて在る汚いバケツの中を這い寄って覗いてみますと、ジャガ芋と肉のゴッタ煮の上にパンの塊《かた》まりと水と、牛乳の瓶が投込んで在ります。……つまり何ですね。まだあっし[#「あっし」に傍点]を殺す気じゃなかったのでしょう。あわよくば仲間に引っぱり込んで仕事をさせる気でいたのでしょう。
しかしあっし[#「あっし」に傍点]は助かったのが嬉しくも悲しくも何ともありませんでした。今から考《かんげ》えてみるとあの時はヨッポド頭が変テコになっていたんですね。やっぱり地球|癲癇《てんかん》の続きだったかも知れませんでしたがね。自分がどこに居るやら、どうなっているやらわからないまま、眼が醒めない前《めえ》から続けていたらしい譫言《うわごと》を、そのまんま云いつづけておりました。
「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」
と繰り返し繰り返し大きな声で云ってたようですが、口癖ってものは恐ろしいものですね。
ところがこの御祈祷の文句のお蔭で、無事にこうやって日本に帰ることが出来たんですから
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