シッコも眼が釣上っちゃって、今にもポンポンパリパリと破裂しちまいそうな南京《ナンキン》花火みてえな気もちになっちまいましてね。哀れとも愚かとも何とも早や、申上げようのない「ふおるもさ、ううろんち」が一|対《つい》、出来上ったもんでゲス。
ところがここに一つうまい事が持上りました。その女たちの中でも一等|捌《さば》けるピン嬢《ちゃん》とチョキ嬢《ちゃん》という二人がノスタレだかオシッコだかわかりませんが病気になっちゃったんで、とりあえずの埋め合わせに聖路易《セントルイス》の支那料理屋に居たというチイチイっていうのとフイフイっていうのと二人の別嬪が手助けに来たんでげす。何しろ一人で卓子《テーブル》を六つ宛《ずつ》も持っているんで一人欠けても頬返《ほおげえ》しが附かないですからね。占めた。こいつは有難いことになったもんだと私《あっし》は内心でゾクゾク喜んじゃいました。ねえ。そうでしょう。今まで居た女には指一本さしても不可《いけ》なかったかも知れねえが、今度来た女なら差支《さしつけ》えなかろう。しかも向うが二人前ならこっちも二人前と云いてえが、片っ方が禿頭《はげあたま》の赤ッ鼻のノスタレじゃ問題にならねえ。若さといい、男前といい、一番|鬮《くじ》の本鬮《ほんくじ》はドッチミチこっちのもんだがハテ。ドッチから先に箸《はし》を取ろうかテンデ、知らん顔をして「わんかぷ、てんせんす」のおまじない[#「おまじない」に傍点]を唱えながら二三日ジッと様子を見ているとドウです。このチイ嬢《ちゃん》とフイ嬢《ちゃん》の二人が一緒に、あっしの方へ色目を使い初めたじゃ御座んせんか。
ヘヘ……どうも恐れ入りやす。おっとっと……こぼれます、こぼれます。どうもコンナに御馳走になったり、勝手なお惚気《のろけ》を聞かしたりしちゃ申訳《もうしわけ》御座んせんが、ここんところが一番恐ろしい話の本筋なんで致方《いたしかた》が御座んせん。どっちみち混線させないようにお話しとかないと、あとで筋道がわからなくなりやすからね。ヘヘ、恐れ入りやす。
二人の中《うち》でもフイフイっていうのは、まだ十七か八の初々《ういうい》しい聡明《りこう》そうな瞳《め》をした、スンナリとした小娘でしたが、あっし[#「あっし」に傍点]に色目を使いはじめたのはドウヤラ此娘《こいつ》の方が先だったらしいんです。台湾館に来る匆々《そうそう》
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