と消えてしまって、あとにはただ玉雄と照子と二人だけ残りました……………………と思う間もなく、太陽の光りに照らされた雪の塔は見る見るうちに溶け出して、ユラユラと二三遍動いたと見る間《ま》に、根元からドタドタドタと一度に崩れ落ちてしまいました。
「アッ」
「助けて」
と叫んで玉雄と照子が時々眼をさましますとコハ如何に、二人はあたたかい寝床の中に寝かされて、お父さんとお母さんが心配そうに介抱しておられました。
二人が眼をさましたのを見ると、お父さんとお母さんは一時に二人を抱き締《しめ》て喜ばれました。そうしてこう云われました。
「まあ、お前達はよく助かってくれたね。お前達が帰りが遅いので、お父さんとお母さんはお迎えに行ったけれども、雪が降ってわからない。それから村中の人を頼んで探してもらって、やっと杉林の中で抱き合ってたおれているお前達を見つけたのだよ。私達はお前達が死ぬかと思ってどれ位心配したか」
と云ううちにお母さんは嬉し涙をこぼされました。
その時にお父さんはこう云われました。
「それにしても不思議な事がある。お前達がまだ眼を醒まさないうちに、お前達はさも面白そうに囈語《うわごと》を云ったり、手をたたいたりしていた。それが二人とも丁度同じ夢を見ているように、同じ時に手をたたいたり面白がったり、巧《うま》い巧いと云ったりしていた。一体お前たちはどんな夢を見ていたのか。お父さんに聞かしてくれないか」
玉雄と照子は寝床の中で顔を見合わせて、不思議そうに眼をまん丸くしました。
底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※底本の解題によれば、初出時の署名は「海若藍平《かいじゃくらんぺい》」です。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年3月6日公開
2006年5月3日修正
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