本を見たり、絵や字をかいたり、お手玉をしたりして日が暮れると、二人は揃って、
「さようなら」
と帰って行きました。お母さんは、
「ほんとに温順《おとな》しい、品のいいお嬢さんですこと。うた子と遊んでいると、うちにいるかいないかわからない位ですわね」
とお父さんと話し合って喜んでおいでになりました。
そのうちにお正月になりました。
うた子さんは初夢を見ようと思って寝ますと、いつも来るお嬢さんが二人揃って枕元に来て、さもうれしそうに、
「今日はおわかれに来ました」
と云いました。
うた子さんはびっくりしましたが、これはきっと夢だと思いましたから安心して、
「まあ、どこへいらっしゃるの」
と尋ねました。二人は極《きま》りわるそうに、
「今から裏の草原《くさはら》に行かねばなりません。どうぞ遊びに入らっして下さいね」
と云ううちに、二人の姿は消えてしまいました。うた子さんはハッと眼をさましましたが、この時やっと気がつきまして、
「それじゃ、水仙の精が遊びに来てくれたのか」
と、夜の明けるのを待ちかねて草原《くさはら》へ行ってみました。
草原《くさはら》は黄色く枯れてしまっている中に、水仙が一本青々と延びていて、青と赤と二いろの花が美しく咲き並んでおりました。
底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※この作品は初出時に署名「海若藍平《かいじゃくらんぺい》」で発表されたことが解題に記載されています。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月19日公開
2003年10月24日修正
青空文庫作成ファイル:
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