。ハッハッ。チョット失敬して便所へ行って来る。君もつき合うか……。
 ウン……そんな事は全く知らなかったのか。無理もないね。ウンウン、麻雀買いの手筋なら何でも知っている。……この頃は蘇州《そしゅう》へ行って自分で指図をして日本人向きに彫らせる。……上海のはいけないのかい。フウン。彫りは派手だけれども牌《パイ》の出来は蘇州の方がいい……フウン。支那人と日本人の好みが違うかね。僕はカラッキシ素人《しろうと》なんだが。フウン。あの団子みたいな模様と、鳥の恰好が、特に日本人は八釜《やかま》しい。そんなものかねえ。成る程。……日本内地では麻雀賭博が流行《はや》り出したかね。そんで密輸入の上物《じょうもの》が売れ出した。つまり日本の麻雀が本格になりかけているんだね。今に支那式のルールが復活する……そうかねえ。とにかく面白いもんらしいね。ウンウン。それで蘇州へ行って麻雀を買い込んだ。ウンウン。帰りに小銭《こぜに》が無くなったから切るつもりで、王君のレストランへ偶然に這入った。料理を一皿註文して珈琲《コーヒー》を飲んでいたら……酒は駄目なのかい君あ……そいつは話せんねえ。ダイナジンて奴を一杯御馳走しよ
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