き》から冗《くど》く説明しているじゃないか。あの垂直の鉄梯子を降りたら運の尽きだと……ハハハ。解ったかい。わかったらモウ一度腰を卸《おろ》し給え。大丈夫だよ。まだ電流《でんき》は来ていない。君を黒焦《くろこ》げにしちゃっちゃ、元も子もなくなるからね。ね。解ったろう。
君はこの船を普通《ただ》の船と見て乗った訳じゃなかろう。最初から秘密があると睨んで虎穴に入ったんだろう。序《ついで》にこの船の秘密を看破《みやぶ》ってやれという気になってここまで降りて来たのは、いい度胸だったかも知れないが、そいつがドウモ感心しなかったね。
ナニ。あの宝石は模造品だって? ハハハ。そうかも知れないが模造品で結構だよ。頂戴する分には差支えなかろう。ナニ、皆|呉《く》れるから生命《いのち》だけは助けてくれか。ハハハハ……それは時と場合に依っては助けてやらない事もないが、それじゃ王《ワン》君に済まない事になるんだ。王君からの電話に依ると君は目下|北平《ペーピン》でヨボヨボしている白系露人の頭領、ホルワット将軍の秘書役だったが、日本の田中内閣が潰れてから、同将軍を支持する国が無くなったので見切りを付けて、共産軍
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