き》から冗《くど》く説明しているじゃないか。あの垂直の鉄梯子を降りたら運の尽きだと……ハハハ。解ったかい。わかったらモウ一度腰を卸《おろ》し給え。大丈夫だよ。まだ電流《でんき》は来ていない。君を黒焦《くろこ》げにしちゃっちゃ、元も子もなくなるからね。ね。解ったろう。
君はこの船を普通《ただ》の船と見て乗った訳じゃなかろう。最初から秘密があると睨んで虎穴に入ったんだろう。序《ついで》にこの船の秘密を看破《みやぶ》ってやれという気になってここまで降りて来たのは、いい度胸だったかも知れないが、そいつがドウモ感心しなかったね。
ナニ。あの宝石は模造品だって? ハハハ。そうかも知れないが模造品で結構だよ。頂戴する分には差支えなかろう。ナニ、皆|呉《く》れるから生命《いのち》だけは助けてくれか。ハハハハ……それは時と場合に依っては助けてやらない事もないが、それじゃ王《ワン》君に済まない事になるんだ。王君からの電話に依ると君は目下|北平《ペーピン》でヨボヨボしている白系露人の頭領、ホルワット将軍の秘書役だったが、日本の田中内閣が潰れてから、同将軍を支持する国が無くなったので見切りを付けて、共産軍の方へ寝返りを打ったサイ・メイ・ロン君に相違ないというんだ。それから君はツイこの頃になってG《ゲー》・P《ペー》・U《ウー》の遊離細胞となって、上海《シャンハイ》に流れ込んで来ると間もなく、最近上海で国際スパイ兼、排日団体の首領として売り出している、青紅《チンオン》嬢の一|乾児《こぶん》となったもので、Rの四号というのはヤッパリ君の事らしいという王君の報告だがね。
……ところでそのRの四号君が、ドレ位の腕前を持っているかということは、今云う通り経歴《すじみち》がヤヤコシイからサッパリ判然《わか》っていないんだが、とにかく一当り当って焦点《フオカス》を合わせてくれ、トランクの中味もまだ突止めていないが、近いうちに日支関係が緊張するのを見越して、上海の巨商|黄鶴号《おうかくごう》から、長崎の支店へ送るべく青紅嬢に委託された貴重品らしいという話だったがね。ハハハ。王君はナカナカ眼が高いよ。
……ナニ……王君の正体は何だって聞くのか。……フフフ……それを聞いてドウするんだい。王君の親友が吾輩なんだから、大抵想像が付くだろう。序《ついで》に吾輩はこの船の機関長でも何でもない。だから最前から饒
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