へ入る時に自分の友人の妹の戸籍謄本を使って、年齢《とし》を誤魔化《ごまか》して入ったと言うのですがね。本当の名前はユミ子というのですが、その堀ユミ子が十九の年に、兄の跡を逐うて故郷を飛び出してからモウ六年になると言うのですから、今年十九という姫草の年齢も出鱈目《でたらめ》でしょう。自分では二十三だと頑張っていましたがね。むろん女学校なんか出ていないと言う報告ですから、ドコまでインチキだか底の知れない女ですよアレは……」
「ヘエ。全然赤じゃないんですね」
「赤の連絡は絶対にありません。随分手厳しく調べたつもりですが」
「そうするとあの女は、つまり何ですか」
「それがですね。エヘン。それがです。つまるところあの女は一個の可哀そうな女に過ぎないのです。貴方がたの御親切衷心から感激しているのですね。一生を臼杵病院で暮したいと言っているのです。臼杵家の人達に疑われるくらいなら私、舌を噛んで死んでしまいますとオイオイ泣きながら言うのですからね」
「ヘエー。ほんとうですか」
「ほんとうですとも。ハハハ。けさ十時頃までに迎えに来て下さい。単に赤の嫌疑で引張ったのだが、その嫌疑が晴れたから釈放するのだ。
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