が、白鷹家を軽蔑して全然、取り合わない事にキメているのではあるまいか。しかし、そうかと言って、あんまり執拗《しつこ》い、急迫した手段で、臼杵家に交際の手蔓《てづる》を求めるのも、こっちが狼狽しているようでおかしい……と言ったようないろいろな気兼《きがね》から、いよいよ形容の出来ない、馬鹿馬鹿しく不愉快な不安に陥って行った。殊に気の小さい、神経質な白鷹氏はユリ子の悪癖を極度に恐れているらしく、この頃では夫婦で寄ると触ると、そんな事ばかり話合っていたところへ、きょう主人が臼杵先生にお眼にかかってみると、どうも御様子が変テコだから一応、電話でお伺いしてみろ。臼杵先生は大変にソワソワして昂奮しておられるようだったが、何かまたあの女が余計な事を仕出かしたのかも知れないから、早く電話をかけといた方がいいだろう。ユリ子が取次に出るか出ないか……という主人の言葉だった……と言う久美子夫人の話で、聞いていた妻の松子は、電話口に立っておられないほど、赤面させられてしまったという。
 しかし、それでも妻の松子は、同時にタマラないほど不安な気持に包まれてしまったので、なおも勇を鼓《こ》して通話を伸ばして貰いな
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