と平気で言い触らしたりなぞしているかと思うと、おしまいには、やはりズット以前に入院した事のある映画俳優か何かの胤《たね》を宿したから、堕胎しなければならぬ……と言ったような事を臆面もなく看護婦長に打ち明け(?)て、長い事病院を休む。そのほか医員の甲乙《たれかれ》と自分との関係を、自分の口から誠しやかに噂《うわさ》に立てる……と言った調子で、風儀を乱すことが甚しいので、とうとうK大耳鼻科長、大凪《おおなぎ》教授の好意によって諭示退職の処分をされる事になったという。
しかし以前からメソジストの篤信者《とくしんじゃ》であった白鷹久美子夫人は、かねてから彼女のそうした悪癖に対して一種の同情を持っていた。そうして彼女の才能と行末を深く惜しんだものらしく、彼女が首になると同時に自宅に引き取って、あらん限りの骨を折って虚構《うそ》を吐《つ》かないように教育した。キリストの聖名《みな》によって彼女の悪癖を封じようと試みたものであった。
ところが、それが彼女に取っては堪《た》まらなく窮屈なものであったらしい。とうとう無断で白鷹家を飛び出して行方を晦《くら》ましてしまったので、何処へ行ったものであろう
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