な態度を非常に喜んだ。そうして彼女をこの上もなく慈《いつく》しんで、末永く自宅《うち》に置いて世話をして遣りたい。間違いのないようにという考えから、本年の二月以降、下六番町の自宅に、彼女を寝泊りさせるように取り計らったが、これに対してはさすがの白鷹氏も、一言の抗議さえ敢《あ》えてしなかったと言う。
ところが久美子夫人の彼女に対するこうした好意が、端《はし》なくも彼女に職を失わせる原因となった。彼女の看護婦としての優秀な手腕をかねてから嫉視している上に、彼女のそうした過分の寵遇を寄ると触《さわ》ると妬《ねた》み、羨み始めた仲間の新旧の看護婦連中が、とうとう彼女を白鷹助教授の第二夫人と言ったような噂を捏造《ねつぞう》して、八釜《やかま》しく宣伝し始めたので、彼女は、久美子夫人に対して気の毒さの余り、身を退《ひ》く事をお願いすると、夫人も涙ながらに承知して、分に過ぎた心付を彼女に与えたので、ユリ子はさながらに姉と妹が生き別れをするような思いをして、下谷の伯母の宅《うち》に引き取る事になったという。それが本年の五月の初めで、それから方々職を探しているうちに臼杵病院へ落ち着いたのでホッと一息し
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