ウ一人の白鷹先生を創作して、電話をかけさせたり、歌舞伎に案内させたり、カステラを送らせたり、風邪を引かしたり、平塚に往診さしたり、奥さんを三越の玄関で引っくり返らしたりなんかして……作り事にしては相当骨が折れるぜ。況《いわ》んや俺たちをコンナにまで欺瞞《だま》す気苦労と言ったら、考えるだけでもゾッとするじゃないか」
「……あたし……それは、みんなあの娘《こ》の虚栄だと思うわ。そんな人の気持、あたし理解《わか》ると思うわ」
「ウップ。怪しい結論だね。恐ろしく無駄骨の折れる虚栄じゃないか」
「ええ。それがね。あの人は地道に行きたい行きたい。みんなに信用されていたいいたいと、思い詰めているのがあの娘《ひと》の虚栄なんですからね。そのために虚構《うそ》を吐《つ》くんですよ」
「それが第一おかしいじゃないか。第一、そんなにまでしてこちらの信用を博する必要が何処に在るんだい。看護婦としての手腕はチャント認められているんだし、実家《うち》が裕福だろうが貧乏だろうが看護婦としての資格や信用には無関係だろう。それくらいの事がわからない馬鹿じゃ、姫草はないと思うんだが」
「ええ。そりゃあ解ってるわ。たとえ
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