ていて、可愛らしく小首を傾《かし》げながら、
「まあ。断《き》っておしまいになったの。あたしからもお話したかったのに……でも、どんなお話でしたの……」
 と心配らしく眼を光らしているのであった。
「ウン。驚いたよ。恐ろしくザックバランな先生だね。少々巻舌じゃないか」
「……でしょうね。そりゃあ面白い方よ」
 それから電話の内容を話して聞かせると、如何にも安心したらしく、さも嬉し気にピョンピョン跳ねて廊下を飛んで行くのであった。
「ホントに白鷹先生ったらスッキリした、いい方だったわ。親切な方……妾大好き……」
 なぞと感激に満ち満ちた、軽い独言《ひとりごと》を言いながら……すこしの不自然もなく私に聞こえよがしに言いながら……。
 ところが、それから二日目の朝、私が出勤すると間もなく、平生《いつ》になく不機嫌な顔をした彼女が、揉《も》みくしゃにした便箋を手に握りながら、妙に身体をくねらして私の前に立った。可愛い下唇を反《そ》らして言うのであった。
「ほんとに仕様のない。白鷹先生ったら。仕事となると夢中よ」
「どうしたんだい。独りでプンプンして……」
「いいえね。昨夜の事なんですの。白鷹先生
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