、甚《はなはだ》しい時は私に断らずにモヒの注射、その他の鎮痛、麻酔手段を取った事が爾後《じご》の経過によって判明した事もあったが、しかし、それにしても患者の喜びは大したものであったらしい。ほかの看護婦に訴えてもマゴマゴしたり、躊躇《ちゅうちょ》したりしている事を彼女はグングン断行して安静に一夜を過ごさせたので、臼杵病院の姫草さんと言う名前が、私の名前よりも先に患家の間に好評を博した事は、決して不自然でなかった。無論、私が助かった事も非常なものであるにはあったが……。
そればかりではない。
彼女の持って生まれた魅力は事実、男女、老幼を超越したものがあった。この点では私の家族たちも唯一言「エライ」と評するよりほかに批評の言葉を発見し得ないくらい、彼女の手腕に敬服していた。
老人は老人のように、小児は小児のように、男は男のように、女は女のようにと言ってみれば何でもない事ではあるが、そうしたあらゆる種類の患者の病状を一々親切に聞いて遣って、院長たる私を信頼させて、安心して診察、手術を受けさせて、気楽に入院させて、時としてはその家庭の内情までも聞いて遣って、同情し、励まし、慰めつつ、無事
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