は九分九厘まで信じておりました。
ですから私は温泉ホテルの前をすこし行き過ぎた湯の川橋の袂《たもと》で自動車を止めて貰いました。
それから狭い横露地伝いに私は、温泉ホテルの三階の横に出まして、あすこの暗い板塀の蔭で長いこと耳を澄ましておりますうちに、高い高い三階の窓から、明るい光線と一緒に微かに洩《も》れて来る校長先生の笑い声を耳に致しました私は、ホット安堵の胸を撫でおろしました。それから直ぐに、音を立てないように板塀を乗り越して、非常|梯子《ばしご》伝いに三階の非常口まで来ますと、あそこから丈夫な銅《あかがね》の雨|樋《とい》伝いに、軒先からクルリと尻上りをして屋根の上に出ましたが、さすがの私……火星の女も、その尻上りをした時に、はるか眼の下の暗黒の底の、石燈籠に照された花崗岩《みかげいわ》の舗道をチラリと見下しました時には、思わず冷汗が流れました。
そんな苦心をして、やっとの思いで目的の赤瓦屋根の絶頂に匐《は》い上りました私は、口に啣《くわ》えて来ました手提の中から取り出した細引のマン中を屋根の中心に在る避雷針の根元に結び付けて、その端を自分の胴中に巻き付けて手繰《たぐ》りな
前へ
次へ
全225ページ中216ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング