なるか……と……それ一つを天にも地にもタッタ一つの心頼みにして……。
いつもの通り古ぼけたフロックコートを召して、玄関に立ってお出でになった校長先生は、やはりいつもの通りに、私を御覧になるとニッコリされました。それは平常の通りの気高い、慈悲深い校長先生のお顔でした。
「……やあ……甘川さんお早よう。貴女にちょっとお話がありますがね。まだ時間がありますから……」
と落ち着いた声で仰言って、私の手を引かんばかりにして正面の階段を昇って、二階の廊下のズッと突き当りの空いた教室の片隅に、私をお連れ込みになりました。そうして、やはりこの上もない御親切な、気高い、慈悲深い顔をなすって、
「どうです。お父さんからのお話を聞かれましたか。大阪へ行く決心が付きましたか」
と仰言って、もう一度ニッコリされました。
その校長先生のお顔は、二、三日前の御記憶なんかミジンも残っていないお顔付きでした。柔和なお顔の皮膚がつやつやしく輝いて、神様のような微笑がお口のまわりをさまようておりました。……あの晩の事は夢じゃなかったのか知らん……あたしは何かしらとんでもない夢を見て、こんなに思い詰めているのじゃなか
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