かも知れない……と話合っていたところだったので、早速、外来患者室に通して、私と三人で面会して一応の質問と観察をこころみた。
「新聞の広告を見て来たのですか」
「いいえ。ちょうど表の開院のお看板が電車の窓から見えましたので降りて参りました」
「ハハア。お国はどちらですか」
「青森県のH市です」
「御両親ともそこにおられるのですか」
「ハイ。H市の旧家でございます」
「御両親の御職業は……」
「造酒屋を致しております」
「ほお。それじゃ失礼ですが、お実家《うち》は御裕福ですね」
「ええ。それ程でもございませんけど……妾が東京に出る事に就きましても、両親や兄が反対したんですけど妾、自分の運命を自分で開いてみたかったんですし、それに看護婦の仕事がしてみたくてたまらなかったもんですから……」
「それじゃ今では御両親と音信を絶っておられるんですか」
「いいえ。いつも手紙を往復しておりますの。それからタッタ一人の兄も東京で一旗上げると言って今、丸ビルの中の罐詰《かんづめ》会社に奉公しております」
「学校は何処をお出になったの」
「青森の県立女学校を出ておりますの」
「看護婦の仕事に御経験がありますか
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