ろ》いながら自殺したのです。あの鳩のような小さな胸に浮かみ現われた根も葉もない妄想《もうそう》によって、貴下と小生の家庭は申すに及ばず、満都の新聞紙、警視庁、神奈川県の司法当局までも、その虚構《うそ》の天国を構成する材料に織込《おりこ》んで来たつもりで、却って一種の戦慄《せんりつ》すべき脅迫観念の地獄絵巻を描き現わして来ました彼女は、遂に彼女自身を、その自分の創作した地獄絵巻のドン底に葬《ほうむ》り去らなければならなくなったのです。その地獄絵巻の実在を、自分の死によって裏書きして、小生等を仏教の所謂《いわゆる》、永劫《えいごう》の戦慄、恐怖の無間地獄に突き落すべく……。
その一見、平々凡々な、何んでもない出来事の連続のように見える彼女の虚構の裡面《りめん》に脈動している摩訶《まか》不思議な少女の心理作用の恐しさ。その心理作用に対する彼女の執着さを、小生は貴下に対して逐一説明し、解剖し、分析して行かねばならぬという異常な責任を持っておる者であります。
しかもその困難を極めた、一種異様な責任は本日の午後に、思いもかけぬ未知の人物から、私の双肩に投げかけられたものであります。……ですから
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