た長篇小説として書けないものであろうか。
傴僂《せむし》の隠亡《おんぼう》が居る。
人跡稀な山奥の火葬場で人を焼く序《ついで》に、棺桶を発《ひら》いて目ぼしいものを奪い取る。中には棺の中で蘇生している人間も居るが、そんな人間は介抱して正気付かせて、生前の秘密をスッカリ喋舌《しゃべ》らせてから又撲殺して焼いてしまう。そうしてその死人の遺族を脅迫して金を奪い取り、巨万の富を重ねる。
そのうちに美しい令嬢の失恋自殺屍体が生き返っているのを発見して自分の妻にしてしまう。隠亡をやめて遠国に住んで、美しい妻と共に一生を楽しく暮す。
その思い出話といったようなものが、一千一夜式に書けないものだろうか……。
何かと書いて来るうちに、お約束の六枚になった。ところで読返してみると、これが即ち探偵小説と申上げ得るものはタダの一つもない。みんな大人のお伽話《とぎばなし》みたいな心理描写ばっかりである。
……ハテナ……。
俺は一体、何を書きたがっているのだろう。
底本:「夢野久作全集11」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年12月3日第1刷発行
入力:柴田卓治
校正:渥美浩子
2001年6月6日公開
2006年2月27日修正
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