ソンナ気持を持っていた訳ではなかったが、その中《うち》に一知の鳴すラジオの音が、次第次第に高まって行く中《うち》に、オナリ婆さんのそうした恐怖的な妄想もだんだんと大きく深刻になって来て、しまいには一知が自分達を殺す目的でラジオを担《かつ》ぎ込んだものに違いないとさえ思うようになった。
「なあ爺さん。あのラジオの音の恐ろしい事なあ。あの音のガンガン鳴り続けいる中《うち》なら、妾《わたし》たちがドンナに無残《むご》い殺されようをしても村の人には聞えやせんでなあ。一知は村の者から頼まれて、私たちを殺しに来た奴かも知れんと思うがなあ。あのラジオを止めさせん中《うち》はドウモ安心ならんと思うがなあ」
この話をマユミから洩れ聞いた一知は、即座に決心してしまった。それは一知にとって絶体絶命の最後の楽しみを奪われる宣言に外ならなかったからであった。
ちょうどその頃のこと。ラジオで三晩続けて探偵小説の講話があって、絶対に発見されない殺人の手段なぞに関する話が、色々な例を引いて放送されたので、一知は村中の人々の怨みを一人で代表しているような気持ちになって、全身を耳にして傾聴した。そうしてラジオの器械を
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