いう話です」
「ウム。あの若い夫婦は大丈夫じゃろう。実父の区長のためになる事でなければ、そう急《せ》いて老夫婦を殺す必要も無い筈じゃから……しかし通りかかりのルンペンにしては遣り口が鮮やか過ぎるようじゃなあ」
「……今度の兇行の動機は怨恨《えんこん》関係じゃないでしょうか。金品《かね》を奪ったのは一種の胡麻化手段《カモフラージ》じゃないですかな」
「……というと……」
「マユミの縁組問題です……ずいぶん美人のようですからね」
「それも考えられるな。今の一知という青年と同年輩で、マユミに縁組を申込んで、老人夫婦に断られた者は居らんかな」
「十分に調べさせてみましょう」
「何にしても問題は兇器だ。アッ……草川君が帰って来た。また恐ろしく大勢連れて来たな。ハハハ……中々気が利いている」
「ナアニ。この村は青年が一致しているのでしょう」
 青年団の兇器捜索は間もなく開始された。中にも草川巡査の指揮振りは実に手に入《い》ったもので、鶴木検事は一々感心しながら見物していた。青年連中の草川巡査に対する尊敬ぶりは、ちょうど小学校の生徒が、受持の教師に対する通りで、骨身を惜《おし》まず、夢中になって活躍
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