た分厚い真鍮板が裏表からガッチリと止めてある。それが、やはりこの家《うち》に不似合なものの一つに見えた。
「この把手はお前が取付けたんか」
「いいえ。養母《おっか》さんが取付けたのだそうです。一軒家だから用心に用心をしておくのだと云って、養母《おっか》さんが自分で町から買うて来て、隣村の大工さんに附けてもろうたのだそうです」
「そうするとこの家《うち》に引移った当時の事だな」
「よく知りませんがヨッポド前だそうです」
「フム。毎晩この鍵を掛けて寝るのか」
「ハイ。私が寝ると、養母《おっか》さんが掛けに来ます」
「そうすると鍵は養母《おっか》さんが持って、寝ている訳じゃのう」
「ハイ……そうらしう御座います」
「うむ。惨酷《ひど》い事をするのう」
 そう云って草川巡査は、うなだれている一知の顔を見たが、暗いので顔色はよくわからなかったけれども、モウ肩を震わして泣いているらしかった。寝巻浴衣の袖で眼を拭い拭い潤んだ声で云った。
「……あきらめて……おります……」
 草川巡査は、そのまま暫く考え込んでいたが、やがて軽いタメ息をしてうなずいた。
「ふうむ。成る程のう……しかしこれ位の鍵を一つ開
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