そく》をたった一本|灯《とも》して、そのまわりを、身体《からだ》中にお化粧して、その上から香油《においあぶら》をベトベトに塗った素《す》っ裸体《ぱだか》の男と女とが、髪毛《かみのけ》を振り乱したまま踊りめぐったりするんですとさあ。そうするとその蝋燭の光りの赤い色が、壁や、天井の色に吸い取られて、まるで燐火《おにび》のように生白く見えて来るにつれて、踊っている人達の身体の色がちょうど、地獄に堕ちた亡者《もうじゃ》を見るように、赤や、緑色や、紫色に光って見えて来るんですって。それと一緒に身体じゅうの皮膚がポッポと火熱《ほて》り出して、燃え上るような気持ちになって来るもんだから、その苦し紛れに相手をシッカリと掴まえようとすると……ホラ、油でヌラヌラしていてチットモ力が這入《はい》らないでしょう。そのうちに、死ぬ程苦しくなって、ヘトヘトに疲れて倒れてしまうんですってさあ……ねえ。ずいぶんステキじゃないの。……だけどまだ恐ろしい話があるのよ。
 ……エ……もう解ったっていうの……。嘘ばっかり……わかるもんですか。ズットおしまいまで聞いてしまわなくちゃ、解りやしないわよ。妾があんたを殺したがっている訳は……まあ黙って聞いてらっしゃいったら……上等の葉巻を一本上げるから……。
 そうしてね……そんな恐ろしい楽しみを続けて行くとそのうちには、とうとう、どんなに滅茶苦茶な遊びをしても直《じ》きに飽きるようになってしまうんですって。そうして最後《おしまい》には自分が可愛いと思っている相手を、自分の手にかけて嬲《なぶ》り殺しか何かにして終《しま》わなくちゃ、気が済まないようになるんですってさあ。……つまり自分の相手をまだ可愛がり飽きないうちに殺しては又、新しい相手を探し探しして行くのが、亜米利加《アメリカ》で流行《はや》る一番贅沢な遊びなんですってさあ……ホホホホホ。ビックリしたでしょう。ねえあんた。誰だってそんな話ホントにしやしないわねえ。妾もそん時には嘘だって笑い出した位よ。だってそれあ男だったらそんな事が出来るかも知れないけど、女がそんな乱暴な遊びをしようなんて思えやしないわ。ねえ。何ぼ何でも……。
 だけど、妾それから温柔《おとな》しくしてヤングの話を聞いていたら、それがだんだん本当らしくなって来たから不思議なのよ。亜米利加の女ってものはそんな遊びにかけちゃ男よりもズット気が強い
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