薬をお祖父様《じいさま》の前へ置いて、最前からの話をして、ふるえながら泣いてあやまりました。
太郎さんのお父様やお母様も、太郎さんの泣き声を聞いて何事かと思って出て来られましたが、太郎さんのお話しを聞くと笑いだして、太郎さんの背中を撫でながら、
「何を言うのだ、太郎さん。そのお薬はお祖父様《じいさま》が町から買っておいでになった、風邪引きの薬のお余りではないか。もう古い古い事だから利かなくなっているのかも知れない。それを若返りの薬だなぞと、お前は狐につままれているのじゃないか」
と腹を抱えて笑いころげられました。しかしその中でお祖父《じい》様だけは笑われずにこう言われました。
「それは太郎の云うのが本当であろう。どんな小さなものでも間違ったしかたで使う事がどんなに悪い事であるかという事が、太郎にだけ本当にわかったのだ。他のものは皆嘘と云っても、太郎だけ本当と思えば、それでいいではないか」
底本:「夢野久作全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日第1刷発行
※底本の解題によれば、初出時の署名は「海若藍平《かいじゃくらんぺい》」です。
入力:柴田卓治
校正:もりみつじゅんじ
2000年1月31日公開
2006年5月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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