よって初めて裏書きされました。これでこそ乞食みたようになって、人々の冷笑を浴びつつ、この浦塩の町をさまよい歩いた甲斐《かい》がありました。
私の恋はもう、スッカリ満足してしまいました。
……ああ……こんな愉快なことはありませぬ。済みませぬがもう一杯乾盃させて下さい。そうしてこの宝石をみんな貴下《あなた》に捧げさして下さい。私の恋を満足させて下すったお礼です。私は恋だけで沢山です。その宝石の霊媒作用は今日《こんにち》只今完全にその使命を果たしたのです……。サアどうぞお受け取り下さい。
……エ……何故ですか……。ナゼお受け取りにならないのですか……。
この宝石を捧げる私の気持ちが、あなたには、おわかりにならないのですか。この宝石をあなたに捧げて……喜んで、満足して、酒を飲んで飲んで飲み抜いて死にたがっている私を可愛相《かわいそう》とはお思いにならないのですか……。
エッ……エエッ……私の話が本当らしくないって……。
……あ……貴下《あなた》もですか。……ああ……どうしよう……ま……待って下さい。逃げないで……ま……まだお話することが……ま、待って下さいッ……。
ああッ……
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