、この際ナゼこんなものを私に見せて、これ程の重大な秘密を打ち明ける気になったかという理由がサッパリわからない事です。もしかしたらこの青年は、私が貴族の出身であることをアラカタ察していて……且つは親友として信頼し切っている余りに、胸に余った秘密の歎きと、苦しみとを訴えて、慰めてもらいに来たのではあるまいかとも考えてみましたが……。それにしては余りに大胆で、軽率[#「軽率」は底本では「軽卒」]で、それほどの運命を背負って立っている、頭のいい青年の所業《しわざ》とはどうしても思われませぬ。
それならばこの青年は一種の誇大妄想狂みたような変態的性格の所有者ではないか知らん。たった今見せられた夥《おびただ》しい宝石も、私の眼を欺くに足るほどの、巧妙を極めた贋造物《にせもの》ではなかったかしらん。……なぞとも考えてみましたが、いくら考え直しても、今の宝石はそんな贋造物《にせもの》ではない。正真正銘の逸品揃いに違いないという確信が、いよいよ益々高まって来るばかりです。
……しかし又、そうかといってこの青年に、
「何故《なぜ》その宝石を僕に見せたんですか」
なぞと質問をするのは、私に接近しかけて
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