って徳市に礼を云った。大勢で憲作を担いで行った。
徳市はあとを見送って両手で悲痛な表情を蔽うた。何事か決心をしたようにうなずくと両手を離して智恵子を悲し気な眼付きで見た。両手で智恵子の手を固く握って、涙をハラハラと流した。
智恵子さん……
僕を……
諦めて下さい……
徳市は両手をハッと放すと表に飛び出した。
智恵子はあとから縋り付いた。
徳市はふり放して警官のあとを追おうとした。
智恵子はあとから出て来た時子と二人でやっと徳市を押え止《と》めた。
三人は涙を流して手を握り合った。
智恵子ははるか[#「はるか」に傍点]に運ばれて行く憲作の死骸を指《ゆびさ》した。
あなたの秘密は……
あそこに消えて行きます……
あなたは浄《きよ》い方です……
徳市は智恵子を抱き締めた。
底本:「夢野久作全集3」筑摩書房
1992(平成4)年8月24日第1刷発行
初出:「黒白」
1925(大正14)年5月号〜9月号
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
※この作品は初出時に、署名「杉山萠圓」で発表されたことが、解題に記載されています。
2005年9月10日作成
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