こびました。それと一緒に太郎さんはおうちのまわりをクルクルまわって、
「ポチよ、ポチよ」
 と呼んでいましたが見つかりませんので、ベソをかいて帰って来ました。そうして今度はお庭の隅にポチのお墓をこしらえ始めました。
 花子さんはそれを見て、
「お兄様、お人形が焼けなかったからポチもきっと無事ですよ。お墓を作るのはおよしなさい」
 と慰めましたが、太郎さんはきかずにお墓を作ってお水を上げて拝んでいました。
 するとその晩おそくワンワンワンとはげしく犬が吠える声と一緒に、
「痛い痛い。畜生。ア痛た痛た。助けてくれ」
 と言ううちに、バタバタと誰か逃げて行く音がしました。
 太郎さんは一番に飛び起きて、
「ポチだ、ポチだ」
 と表へ飛び出しました。お父様もお母様も花子さんも驚いてみんな表へ出ますと、泥棒のようななりをした大男が犬に食いつかれて跛《びっこ》を引き引き向うへ逃げて行きます。そのあとからポチが一所懸命吠えながら追っかけて行きますと、やがて泥棒は通りかかったお巡査《まわり》さんに捕まってしまいました。
 帰って来たポチを見ると、太郎さんは抱きついて嬉し泣きをしました。
「えらい、えらい。よく泥棒を追っ払った」
「さあ御ほうびにお握りを上げるよ」
 とお父さんとお母さんが交わる交わるお賞めになりました。
「やっぱりあの夢はほんとだったわね」
 と花子さんは人形を抱きながら太郎さんに言いました。太郎さんは犬の背中を撫でながら嬉しそうにうなずきました。



底本:「夢野久作全集7」三一書房
   1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
   1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「九州日報」
   1923(大正12)年10月30日−11月1日
※底本の解題によれば、初出時の署名は「海若藍平」です。
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年7月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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