え」
 とダンスを踊っている。何が勝ったんだかわからない。苦々しい奴だと思っている筆者を皆して引っぱって、重役室に挨拶に行った。仕方なしに筆者が頭を下げて、
「どうも今日は御馳走様になりまして」
 と言って切り上げようとすると、背後から酔眼朦朧たる仮装マネージャーが前に出て来て、わざとらしい舌なめずりをして見せた。銅羅声を張り上げた。
「ええ。午後の仕事がありませんと、もっとユックリ頂戴したかったのですが、残念です」
 と止刺刀《とどめ》を刺した。
 しかし往来に出るとさすがに一同、帽子を投げ上げラケットを振り廻して感激した。
「××麦酒会社万歳……九州日報万歳……」
「ボールは子供の土産に貰って行きまアス」
 翌日の新聞に記事が出たかどうか記憶しない。



底本:「夢野久作全集7」三一書房
   1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
   1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「モダン日本 6巻8号」
   1935(昭和10)年8月
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年7月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング