筈のものでない。しかも、それがわかった時はビタミンの発見と同様、遠からず平々凡々な趣味によってしまうべき運命を持っているので、現在のように大衆を酔わせる力はなくなってしまうであろう――ナアンダ。つまらない――というような心細い感じもするようである。
しかし、又、万一それがそうでなかったらどうであろう。唯物文化が唯一の生命としている――2+2=2×2=4――式な哲学に飽き果てた近代人が、その生活の対照として石から油を取るような思いをしてヒネリ出した趣味が、コンナ「探偵」とか「猟奇」とかいう趣味傾向となってあらわれたものであるとすれば、どうであろう。
問題は実にタヨリナイものに化する。手の甲にツバキをつけて垢をコスリ出して自分のキタナサに驚いて楽しむ趣味と同じものになる――イヤジャありませんか――ペッペッ――しかし又、同時に問題は非常に重大化する。こうした趣味の芸術は、あらゆる芸術の先鋒を承って行くべき――そうして将来益々その精鋭の度を加えつつ――あらゆる方面に人類の生活をエグリ付けつつ――新領土を次から次に開拓して行くべき、人類の生命の躍動の最新最鋭の、白熱的尖端――オヤオヤ――スッカリ本誌のお提灯になってしまった――イヤドウモ――。
しかも、形容詞ばかりで、内容も焦点も、定義も、範囲も、依然としてハッキリしていないのだから人を馬鹿にしているでしょう。
実際こうした趣味は天地|開闢《かいびゃく》以来ある趣味なのでしょうか。それとも飛行機と一所《いっしょ》に生まれた趣味なのでしょうか。
ソモソモ七面鳥は自身に猟奇趣味を理解しつつ、あんなに顔色を変化して行くのでしょうか――。
モボは本当に時代遅れを自覚しつつ銀座街頭から消え失せて行くのでしょうか――という論理が又成り立つかどうか――。
考えているうちに頭がわるくなった。
とにもかくにも近来益々この趣味が流行して来ました――いろんな新しい主義や傾向と一所に――。けれどもそんな趣味を流行《はや》らせている人々は本当にこんな趣味を理解しながら書いたり読んだりして居られるのでしょうか。新米の私にはサッパリ見当が付きませんが――。
万一私と同様に、わからないまま夢中になって御座るのでしたら――アハハハハハ――まさかソンナ事もありますまいけれど――ナンセンス――ナンセンス――。
パアパアパアパアパアパア――
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