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……トテモ恐ろしい……考え切れないくらい恐ろしい秘密だ。一千年前に死んだ呉青秀の悪霊と、現代に生きている正木博士の科学知識との闘争《たたかい》は今|酣《たけなわ》なんだ。
……しかも正木博士は、この研究に志した当初の一瞬間から、その良心の急所を呉青秀の悪霊に掴まれてしまっている。人間愛の中《うち》でも最大最高の親子の情と、夫婦の愛とを握り殺されてしまっている。そうして自分自身にはそれを気付かないで、どんな事があっても自分だけは決して呉青秀の悪霊に呪われまいと頑張り通して来ている……その呪われた心理状態を、色々な論文や、談話やチョンガレ歌なぞの形に現わして、次から次に公表して来ている……その一方には千世子を初めとして呉一郎、モヨ子、八代子と次から次に痛ましい犠牲を作り出しつつ、勇敢にもそれを踏み越え踏み越えして、科学の勝利を確信しつつ……呉青秀の悪霊を向うに廻しつつ、一心不乱に斬って斬って切り結んでいる。……ああ何という凄惨な、冷血な、あくどい[#「あくどい」に傍点]執念深い闘争《たたかい》であろう。……魂から滴《したた》り落ちる血と汗の臭気《におい》がわかるような……。
……けれども……。
……けれども……。
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ここまで考えて来ると、私はパッタリと立ち止った。……賑やかな往来を見た。……不思議そうな目付きや顔付きで私を振り返って行く人々を見まわした。高い高い広告塔の絶頂でグルグルグルグルまわり出した光の渦巻を見上げた。その上に横たわる鮮肉のような夕映《ゆうばえ》の雲を凝視した。
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……けれども……。
……けれども……。
……よく考えてみると、私はまだその中から、私の過去の記憶の一片だも、思い出していないのであった――私は何者――という解答を自分自身に与える事が出来ない。憐れな健忘症の状態に止《とど》まっているのであった。私は今朝《けさ》あの七号室で眼を開いた時と少しも変らない……依然としてタッタ一人で宇宙間を浮游《ふゆう》する、悲しい、淋しい、無名の一|微塵《みじん》に過ぎないのであった。
……私は何者?……。
……ああ……これを思い出したら私はすぐにも呉青秀の呪いから醒めそうに思われるのに……あの絵巻物の魔力から切離されてしまいそうに思われるのに……どうしてもそれが思い出せない。いくら考えても
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