モヨ子を呼び起した。……ところで無論モヨ子はこの時まで、こうした新郎の要求の真実《ほんとう》の意味を知らなかったようである。云う迄もなく呉一郎も、イザというドタン場までは故意《わざ》と真実の事を話さずに、高圧的な命令の形で、熱心に迫ったものらしいので、モヨ子も真逆《まさか》にそれ程の恐ろしい計劃とは知らずに、ただ当り前の意味に解釈して、非常に恥かしい事に思い思い躊躇していたらしい事が、戸倉仙五郎の話に出ている前後の状況で察せられる。……けれどもモヨ子は気質《きだて》が温柔《おとな》しいままに結局、唯々《いい》として新郎の命令に従う事になった。そいつを呉一郎の呉青秀は蝋燭の光りを便《たよ》りにして土蔵の二階に誘い上げた……という順序になるんだ。そこでその現場に関する調査記録を開いてみたまえ」
「……………」
「……それそれ。そこん処だ。階下より蝋燭の滴下起り……云々と書いて在るだろう。その百|匁《め》蝋燭の光りの前で、新郎と差向いになったモヨ子は、初めてその絵巻物を突き付けられながら……この絵巻物を完成するために死んでくれ……という意味の熱烈な要求を受けたに相違ない。しかもその絵を見ると、眼鼻立から年頃まで自分に生写しの裸体少女の腐敗像の、真に迫った名画と来ているのだからタマラない。腸《はらわた》のドン底まで震え上ると同時に卒倒して、そのまま仮死の状態に陥ってしまったものと考えられる……という事実を、その調査記録は『抵抗、苦悶の形跡なし』とか『意識喪失後に於て絞首』云々の文句で明かに想像させているではないか」
「……のみならずモヨ子がその後に於て、程度は余り深くないながらに自分と同姓の祖先に当る花清宮裡《かせいきゅうり》の双※[#「虫+夾」、第3水準1−91−54]姉妹《そうきょうしまい》の心理遺伝を、あの六号室で描《か》き現わしている事実に照してみると、その仮死に陥った瞬間というのは、彼《か》の土蔵の二階で、呉一郎がサナガラに描き現わした一千年前の呉青秀の心理遺伝の身ぶり素振りによって、モヨ子が先祖の黛《たい》、芬《ふん》姉妹《きょうだい》から受け伝えていたマゾヒスムス的変態心理の慾望と記憶とを、ソックリそのままに喚起《よびおこ》された刹那《せつな》であったろうという事も、併せて想像されて来るではないか」
「……………」
「……但《ただし》。こういうと不思議に思うか
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