てはいけないと云われるとイヨイヨ見たくてたまらなくなるのが『安達《あだち》ヶ|原《はら》』以来の人情だもんだから、呉青秀の子孫の中《うち》にコッソリと、弥勒様の首を引き抜いて、絵巻物を取り出して見る奴が出て来た。そいつがみんなキチガイになって暴れ出した訳なんだが、そこへやって来たのが呉虹汀《くれこうてい》の美登利屋坪太郎《みどりやつぼたろう》だ……こいつが又、禅学か何かの力で、この心理遺伝の作用を看破して、一思いに絵巻物を焼いて終《しま》おうとした。……か、どうか知らないが、おおかた惜《おし》かったんだろう……表面は焼いたふりをして、実は焼かずに元の穴へ納めて、巻物の供養を大々的にやったりしてお茶を濁しておいた。その絵巻物が又、現代の物質万能の世界に大見得《おおみえ》を切って出現して、恐るべき悲劇を捲き起した……というのが大体の筋道だがね……」
「ハア……やっと解ったようですが……しかしその絵巻物を見てキチガイになるのが男に限っているのは何故《なにゆえ》でしょうか」
「ウムッ……豪《えら》い。豪いぞ君は……ステキな質問だぞ、それは……」
 と云ううちに正木博士は突然にテーブルを平手でタタイたので、私はビックリして座り直した。何だか解らないままに胸をドキンとさせながら……。しかし正木博士は委細構わずに言葉を続けた。
「イヤ感心感心。この事件の興味のクライマックスは実にそこに在るんだ。スッカリ心理遺伝学の大家になっちゃったナ。君は……」
「……ドウしてですか……」
「ドウシテじゃない。まあこの絵巻物を開いて見給え。今の疑問は一ペンに解けてしまうから……もっとも、それと同時に君がホントウの呉一郎ならば、呉青秀の子孫としての心理遺伝的夢遊をフラフラと初めるか初めないか……又は自分はどこそこの何の某《それがし》という者で、ドンナ来歴でこの事件に関係して来たかという過去の記憶を一ペンにズラリと回復するかしないか……それとも又『この絵巻物はこの前に、いつどこで、どんな奴から見せられた事がある』という、この事件の黒星のまん中をピカリと思い出すか出さないか……若林と吾輩のドッチが勝つか負けるか……そうして最後に君の将来は如何なる因果因縁の下に、イヤでもあの美しい令嬢とスイートホームを作らなければならぬのか……というようなアラユル息苦しい重大問題がこの絵巻物を見ると同時に、一ペンに解決
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