水《かりょうこうすい》を写し、転じて巫山巫峡《ふざんふきょう》を越え、揚子江を逆航《ぎゃっこう》して奇勝名勝を探り得て帰り、蒐《あつ》むるところの山水百余景を五巻に表装して献上した。帝これを嘉賞《かしょう》し、故|翰林《かんりん》学士、芳《ほう》九|連《れん》の遺子|黛女《たいじょ》を賜う。黛は即ち芬《ふん》の姉にして互いに双生児《ふたご》たり。相並んで貴妃《きひ》の侍女となる。時人《じじん》これを呼んで花清宮裡《かせいきゅうり》の双※[#「虫+夾」、第3水準1−91−54]《そうきょう》と称す。時に天宝十四年三月。呉青秀二十有五歳。芳黛十有七歳とある」
「これあ驚いた。トテモ記憶《おぼ》え切れない。それもヤッパリ年代記ですか」
「イヤ。これは違う。『黛女を賜う』という一件の前後までは『牡丹亭秘史《ぼたんていひし》』という小説に出ている。その小説には玄宗皇帝と楊貴妃が、牡丹亭で喋々喃々《ちょうちょうなんなん》の光景を、詩人の李太白《りたいはく》が涎《よだれ》を垂らして牡丹の葉蔭から見ている絵なぞがあって、支那一流の大|甘物《あまもの》だが、その中でも、呉青秀に関する記述の冒頭だけは、この由来記の内容と一字一句違わないから面白いよ。そのうち文科の奴に研究させてやろうと思うが、第一非常な名文で、思わず識《し》らず暗記させられる位だ」
「そうですかねえ。でも何だか、漢文口調のお話は、耳で聞いただけでは解らないようですね。その使ってある字を一々見て行かないと……」
「ウン。それじゃモット柔かく行くかナ」
「ドウゾ……助かります」
「ハハハハハハ。要するにこの玄宗皇帝というおやじ[#「おやじ」に傍点]は、楊貴妃と一緒にお祭りの行燈絵《あんどんえ》に描かれる位で、古今のデレリック大帝だ。四夷《しい》を平らげ、天下を治め、兵農を分ち、悪銭を禁じ……と来たまではよかったが、楊貴妃に鼻毛を読まれて何でもオーライで、兄貴の楊国忠《ようこくちゅう》を初め、その一味の碌《ろく》でなし連中をドンドン要職に引き上げた。つまり忠臣を逐《お》い出して奸臣《かんしん》を取り巻きにして、太平楽を歌った訳だね。あげくの果は驪山宮《りさんきゅう》という宏大もない宮殿の中に、金銀珠玉を鏤《ちりば》めた浴場《バス》を作って、玉のような温泉を引いて、貴妃ヤンと一緒に飛び込んで……お前とオーナラバ、ドコマデモオ…
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