りの証拠じゃないか」
 こう云い終ると正木博士は、如何にも憎々しい、皮肉を極めた冷笑を浮めた。回転椅子の上に反《そ》りかえって傲然《ごうぜん》と腕を組んだ。葉巻の煙を高々と吹き上げつつ嘯《うそぶ》いた。恰《あたか》も若林博士が、どこからか耳を澄まして聞いているのをチャント予期しているかのように……。
 それを見ると私の心臓は又も、新しい恐怖に打たれて、一たまりもなく縮み上がってしまったのであった。……何という物凄い両博士の闘いであろう。何という深刻執拗な智慧比べであろう。今の今まで、そんな恐ろしい闘争の間に自分自身が挟まれている事を夢にも知らなかった私は……今の今まで見て来た苦しさや、せつなさ、恐ろしさや物狂おしさなぞが、みんなこの二人の博士の悪魔のようなトリックの引っかけ合いに引っかけられて、引きずりまわされて来たせいである事を、初めて気が付いた私は……もう悲鳴をあげて逃げ出したいような衝動に満ち充《み》たされてしまったのであった。今にも立ち上りそうに腰を浮かしかけたのであった。……が……。
 ……しかしこの時の私は、どうしたわけか一寸も椅子から離れる事が出来なかった。額にニジミ出る汗をハンカチで拭いつつ、又も腰を落ちつけてため息した。そうして、正木博士の顔を一心に凝視しつつ、その黒ずんだ、気味のわるい唇が動き出すのを、生命《いのち》がけの気持ちで待っていなければならぬような心理状態に陥ってしまったのであった。……それは恐らく、この二人の博士が、全力というよりも寧《むし》ろ死力を竭《つく》して奪い合っているほどの怪奇を極めた精神科学の実験そのものの魅力のために私の魂がもう、スッカリ吸い付けられてしまっていたせいかも知れない……その話の底を流るる形容の出来ない不可思議な真実性が、グッと私の心臓を引っ掴んで、云い知れぬ好奇心の血を波打たせているせいかも知れない。……なぞと……そんな事を考えつつ茫然として、眼の前の空間を凝視している私の耳元に、又も咳一咳《がいいちがい》した正木博士の声が、新しく、活《い》き活きと響いて来た。

「ハハハハハハ……どうだい。もうわかったかい、錯覚の原因が……ウン。わかった。……併《しか》しまだ少々解らないところが在るだろう。ウン。在る……なかなか頭がいいね。……第一そこに居る君自身が、どこの何という青年で、如何なる因果因縁でもってこの事件
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