た。
「ここいらに女の屍体が埋まっているのです」
「ウーム。ナルホド。ウーム」
 と正木博士は唸った。そのまま鼻眼鏡ごしに呉一郎の両眼を穴のあく程深く覗き込みつつ、厳格なハッキリした言葉付きで、一句一句、相手の耳に押し込むように問うた。
「……フーム……ナルホド……。しかし……その女の屍骸が、土の下に埋められたのは……イッタイいつの事だね……」
 呉一郎は両手に鍬を支えたまま、ビックリしたように博士の顔を見上げた。その頬の赤い色がスーと消え失せて、唇をムズムズと動かした。
「……イツ……イツ……イツ……いつの事……」
 と魘《おび》えたような口調で繰り返し初めた。そうしてやや暫くの間、茫然として、そこいらを見まわしていたが、やがて何ともいえない淋し気な、途方に暮れた表情にかわった。……パタリと鍬を取り落して、力なく眼を伏せると、ガックリとうなだれて穴を這い上りながら、ソロソロと入口の方へ歩み去った。
 そのあとを見送った正木博士は、腕を組んで会心の笑《えみ》を洩らした。
「果せる哉《かな》だ。心理遺伝が寸分の狂いもなく現われて来るわい。……しかし、もう一辛棒《ひとしんぼう》しなくちゃなるまい。これからが本当の見物だからな……」

 【字幕[#「字幕」は太字]】 再び同年十月十九日(前の場面から約一箇月後)の解放治療場内の光景。
 【映画[#「映画」は太字]】 一番最初に映写した通りの、平らな砂地になった場内の煉瓦塀の前に、畠を打っている老人の鉢巻儀作《はちまきぎさく》があらわれる。但《ただし》、儀作は、最初の場面に現われた時よりも一畝《ひとうね》ほど余計に畠を作っているが、傍《かたわら》に居る痩《や》せた少女も、その半分の処まで、枯れ枝や瓦の破片《かけら》を植えつけている。
 その前に突立っている呉一郎も、最初の場面の通りに微笑を含んで、両手をうしろに廻したまま、老人の打ち振る鍬の上げ下しを一心に見守っているが、僅か一箇月ほど経過した間にスッカリ色が白くなって、肉が丸々と付いているのは、その間じゅう穴掘りの労働を中止して、自分の室……第七号室に閉じ籠っていたからであろう。
 その背後《うしろ》から正木博士がニコニコしながら近付いて来て、やおら肩の上に手を置くと、呉一郎はハッとしたように振り返った。
「……どうだい……久し振りに出て来たじゃないか。スッカリ色が白くなっ
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