屈《かが》みながら、両手でザクザクと焼けた砂を掘返し初めた。
最前から入口の処に突立って、その様子を見ていた正木博士は、小使に命じて鍬《くわ》一|挺《ちょう》持って来さして呉一郎に与えた。
呉一郎はさも嬉しそうにお辞儀しいしい鍬を受け取って、前よりも数倍の熱心さでギラギラ光る砂を掘り返し初めた。それにつれて濡れた砂が日光に曝《さら》されると片端《かたっぱし》から白く乾いて行った。
その態度を熱心に見守っていた、正木博士はやがてニヤリと笑ってうなずきつつ、サッサと入口の方へ立ち去った。
【字幕[#「字幕」は太字]】 それから約二個月後の解放治療場に於ける呉一郎(同年九月十日撮影)
【映画[#「映画」は太字]】 解放治療場中央の桐の葉にチョイチョイ枯れた処が見える。その周囲の場内の平地の処々に真黒く、墓穴のように砂を掘り返したところが、重なり合って散在している。
その穴と穴の間の砂の平地の一角に突立った呉一郎は、鍬を杖にしつつ腰を伸ばして、苦しそうにホッと一息した。その顔は真黒く秋日に焦《や》けている上に、連日の労働に疲れ切っているらしく、見違えるほど窶《やつ》れてしまって、眼ばかりがギョロギョロと光っている。流るる汗は止め度もなく、喘《あえ》ぐ呼吸は火焔のよう……殊に、その手に杖ついている鍬の刃先《はさき》が、この数十日の砂掘り作業の如何に熱狂的に猛烈であったかを物語るべく、波形に薄く磨《す》り減って、銀のようにギラギラと輝いている物凄さ……生きながらの焦熱地獄に堕《お》ちた、亡者の姿とはこの事であろう。
その呉一郎はやがて又、何者かに追いかけられるように、真黒な腕で鍬を取り直した。新しい石英質の砂の平地に、ザックとばかり打ち込んで別の穴を掘り初めたが、そのうちに大きな魚の脊椎骨を一個《ひとつ》掘り出すと、又急に元気付いて、前に倍した勢いで鍬を揮《ふる》い続けるのであった。
舞踏狂の女学生が、呉一郎の背後に在る大きな穴の一つに落ち込んで、両足を空中に振りまわしながら悲鳴をあげた。ほかの患者たちが手を拍《う》って喝采した。
しかし呉一郎は、ふり向きもせずに、なおも一心不乱に掘って掘って掘り続けて行くと、やがて今度は何か眼に見えぬものを掘り出したらしく、両手の指でしきりに捻《ひ》ねくっていたが、すぐに鍬を取り直して、眼を火のように光らし、白い歯を砕ける
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