早世に遭《あ》ふとひとしく乱心仕りて相果《あいは》て候。その後代々の男子の中に、折にふれ、事に障《さわ》りて狂気仕るもの、一人二人と有之《これあり》。その病態《さま》世の常ならず。或《あるい》は女人を殺《あや》めむと致し、又は女人の新墓《にいはか》に鋤鍬《すきくわ》を当つるなぞ、安からぬ事のみ致し、人々|之《これ》を止むる時は、その人をも撃ち殺し、傷つけ候のみならず、吾身も或は舌を噛み、又は縊《くび》れて死するなぞ、代々かはる事なく、誠に恐ろしき極みに侍り。
 かやうの仕儀に候へば、見る人、聞く人、などかは恐れ、危ぶまざらむ。あるひは男子の身にて彼《か》の絵巻物を窺ひたる祟《たた》りと申し聞え、又は不浄の女人の、彼《か》の仏像に近づける障《さわ》りかと怪しむなぞ、遠きも近きも相伝へて血縁を結ぶことを忌《い》み嫌ひ候為め、吾家の血統《ちすじ》の絶えなむとする事度々に及び候。さ候へば、あるひは金銀に明かし、又は人を遠き国々に求めて辛《から》くも名跡を相立て候ひしが、近年に及び候ては下賤|乞食《こつじき》に到るまでも、吾家の縁辺と申せば舌をふるはし身をわなゝかす様に侍り。只今にては血縁の者残らず絶え果て、妾《わらわ》、唯一人と相成りて候。わけても妾の兄|御前《ごぜん》二人は、此程引続きて悩乱の態《てい》となり、長兄は介隈《かいわい》の墓所を発《あば》き、次兄は妾を石にて打たむと仕るなぞ、恐ろしき事のみ致したる果《はて》、相次ぎて生命《いのち》を早め侍りしばかりにて、さる噂、一際《ひときわ》高まりたる折節に候へば大抵《およそ》の家の者は暇《いとま》を請ひ去り、永年召し使ひたる者も、妾を見候てため息を仕るのみ。はか/″\しく物云ふ者すらなく、わびしくも情なき極みと相成り果て候。
 さる程に、かゝる折柄、此の唐津藩の御家老職、雲井なにがしと申す人、此事を聞き及ばれ候ひて、御三男の喜三郎となん云へる御仁《ごじん》をば、妾が婿がねに賜はり、名跡を嗣《つ》がせらる可き御沙汰あり。召し使ひたる男女《なんにょ》共、あたゞに立ち騒ぎ打ち喜びて、かほどの首尾《しあわせ》はよもあらじと、今までに引き換へてさゞめき合ひ候ひしが、そが中に唯一人、妾を守《も》り育て候|乳母《めのと》の者、さまで嬉しからぬ面《おも》もちにて打ち沈み居り候故、その仔細を尋ね候ひしに、ため息して申し侍るやう。這《こ》はゆ
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