が知らせるというもので御座いましつろうか……とにかく自分の手落ちになってはならぬ。皆が起きぬうちに……と思いましたから、お八代さんを起したので御座いますが、私がオモヨさんの寝床を指さしまして、コレコレと申しますと、眼をこすっておりましたお八代さんはハッとした様子で……「この頃一郎が、何か巻物のようなものをば持っとるのを見かけはせんじゃったか」……と不意に妙な事を尋ねながら、寝床の上にピタリと座り直しました。私は、しかし、その時までは何も心付きませんので「……ヘエ……昨日《きのう》、石切場で会いました時に、何か存じませんが白い紙ばかりの、長い巻物を読んで御座ったようで……」と申しましたが、その時のお八代さんの血相の変りようばっかりは今でも忘れません……「又出て来たか――ッ」とカスレたような声で申しますと、唇をギリギリと噛んで、両手を握り固めてブルブルと慄《ふる》わして、眼を逆様《さかさま》に釣り上げて、チョット取り詰めた(逆上喪神の意)ようになりました。私は何事か判らぬままに胆《きも》を潰《つぶ》しまして、尻餅《しりもち》をついたまま見ておりますと、やがてお八代さんは気を取り直した様子で、涙をハラハラと流したのを袂《たもと》で拭い上げまして、泣き笑いのような顔をしながら「イヤイヤ。私の思い違いかも知れぬ。お前の見違いかも知れぬ。とにかくどこに居るか探しておくれ」と云うて立ち上りました。その時はもう平生《いつも》とかわらぬ風付《ふうつ》きで、先に立って縁側から降りて行きましたが、実はよほど周章《うろた》えて御座ったと見えまして、跣足《はだし》で表口の方へ行かっしゃる後から、私が下駄を穿《は》いて蹤《つ》いて行きました。
 ――小雨はもうその時には降りやんでおりましたようですが、間もなく離家《はなれ》の前の……ここから見えますあの一番右側の三番|土蔵《ぐら》の前まで来ました時に、私は土蔵《くら》の北向きになっている銅張《あかがねば》りの扉《と》が、開いたままになっているのに気が付きまして、先へ行くお八代さんを引止めて指をさして見せました。あとから考えますとこの三番土蔵は、麦秋《むぎ》頃まで空倉《あきぐら》で、色々な農具が投げ込んでありまして出入りが烈《はげ》しゅう御座いますので、若い者がウッカリして窓を明け放しにしておく事がチョイチョイ御座いました。この時なぞもそうだった
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