たように思うので御座いますが、日が暮れるまえにチョット妙な事が御座いました。……私はそれから裏口の梔子《くちなし》の蔭に莚《むしろ》を敷きまして、煙管《きせる》を啣《くわ》えながら先刻《さいぜん》の蒸籠《せいろ》の繕《つくろ》い残りを綴《つづ》くっておりましたが、そこから梔子の枝越しに、離家の座敷の内部《ようす》が真正面《まむき》に見えますので、見るともなく見ておりますと、若旦那は離家のお座敷の机の前で着物を着換えさっしゃってから、オモヨさんが入れたお茶を飲みながら、何かしらオモヨさんに云い聞かせて御座るようで……硝子《ガラス》雨戸の中ですから声はわかりませぬが、お顔の色が平生《いつも》になく青ざめて、眉がヒクヒクと動いているあんばい[#「あんばい」に傍点]は、まるで何か叱って御座るようにも見えましたが、しかしよく気をつけて見ますと、そうでも御座いません。当の相手のオモヨさんはその前で洋服を畳みながら、赤い顔をして笑い笑い「イヤイヤ」と頭を横に振っているようで、まことに変なアンバイで御座いました。
――ところがそれを見ると若旦那はいよいよ青い顔になられまして、オモヨさんにピッタリとニジリ寄って行かれました。そうしてここから見えます、あの三ツ並んだ土蔵《おくら》の方角を指さして見せながら、片手をオモヨさんの肩にかけて、二三度ゆすぶられますと、最前から火のように赤うなって身体《からだ》をすぼめていたオモヨさんが、やっとのこと顔をあげて、若旦那と一緒に土蔵《おくら》の方を見ましたが、やがて嬉しいのか悲しいのか解らぬような風付《ふうつ》きで、水々しい島田の頭をチョットばかり竪《たて》に振ったと思うと、首のつけ根まで紅くなりながら、ガックリとうなだれてしまいました……まるで新派の芝居でも見ておりますようなアンバイで……ヘイ……。
――するとその態度《ようす》をジット見て御座った若旦那は、オモヨさんの肩に手をかけたまま中腰になって硝子《ガラス》雨戸越しにそこいらをジロジロと見まわして御座るようでしたが、やがて軒先《のきさき》の夕空を見上げながら、思い出したように白い歯を出して、ニッタリと笑われました。そうして赤い舌を出してペロペロと舌なめずりをさっしゃったようでしたが、その笑顔の青白くて気味の悪う御座いました事というものは、思わずゾッと致しました位で……ヘイ……けれども真逆
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