って見て御座る様子で御座います。
 ――私は呉様のお家に祟《たた》る絵巻物があるという事をかねてから噂には聞いておりました。けれどもそれはもう余程大昔の事で、今の世の中に、そのような事があろう筈はない。あっても話ばかりと思うておりましたけに、真逆《まさか》その巻物がソレであろうとは夢にも思いつきません。やはり眼が悪いのだろうと思いまして、若旦那に気取《けど》られぬように、出来るだけ顔を近付けて見ましたけれども、白い紙はやはり白い紙で、いくら眼をこすりましても、物が書いてある模様は見えません。
 ――サア私は不思議でならなくなりました。若旦那が何を見て御座るのか、一つ聞いて見ようと思いますと、急いで岩角を降りました。そうしてワザと遠廻りをして、若旦那の前に出てヒョッコリ顔を合わせますと、若旦那は私が近寄りましたのに気もつかれぬ様子で、半開きの巻物を両手に持ったまま、西の方の真赤になった空を見て何かボンヤリと考えて御座るようで御座います。そこで私が咳払いを一つ致しまして「モシ若旦那」と声をかけますと、ビックリさっしゃった様子で、私の顔をツクヅク見ておいでになりましたが「おお、仙五郎か。どうしてここへ来た」と初めて気が附いたようにニッコリ笑われますと、裏向きにして持って御座った巻物を捲き納めながら、グルグルと紐《ひも》で巻いてしまわれました。私はその時若旦那が、何か余程大切な事を考え御座ったものとばかり思っておりましたから、何の気もつかずに、お八代さんが心配して御座る事を話しまして「一体それは何の巻物で御座いますか」と手に持って御座るのを指して尋ねました。そうすると、又いつの間にか背振山《せぶりやま》の方をふり返って、何か考えて御座った若旦那様は、又、ハッとしたように私の顔と、巻物とを見比べておられましたが「これかね。これは僕がこれから仕上げねばならぬ巻物で、出来上ったら天子様に差し上げねばならぬ大切な品物だ。誰にも見せる訳に行かん」と云い云い外套の下の洋服のポケットにお入れになりました。
 ――私はいよいよ訳がわからぬようになりましたが「しかし、その中には何が書いて御座いますので……」と申しますと、若旦那は心持ち赤くなられまして、苦笑いをしながら「それは今にわかる。とても面白いお話と、恐ろしい絵が描《か》いてある。僕達が式を挙げる前に是非とも見ておかねばならぬものだとそ
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