ゆえん》なり。
【五】 絞首に引続く第二段の夢中遊行……屍体飜弄……
被害者が、床上その他を輾転《てんてん》して苦悶したる痕跡及び絞殺の跡《あと》顕著なるにも拘《かかわ》らず、更にこれを縊死と見せかけたるは浅薄なる犯罪隠蔽行為なるが如くにして実は然らず……云々として、犯人たる仮想の第三者の智力の尋常ならざるを疑われたるは、一面の理由ある判断なるが如くなるも、これ亦、余りに穿《うが》ち過ぎたる不自然の観察なりと信ずるに躊躇せず。何となれば右の事象は又、偶々《たまたま》以て夢中遊行状態特有の怪異なる行動が当夜、同所に於て行われたる事跡を物語るものにして、著者の所謂《いわゆる》……屍体飜弄[#「屍体飜弄」に傍点]……が当夜の呉一郎に依って演ぜられたるものと認めて些《いささか》の不自然を感ぜざるのみならず、却《かえ》って右の事象に対する説明の簡単適切、疑うべからざるものあるを以てなり。
但し夢中遊行中の屍体飜弄[#「夢中遊行中の屍体飜弄」に傍点]なる現象に関しては古来、明確なる記録の憑拠《ひょうきょ》するに足るべきもの殆ど存在せず。唯、かかる超唯物科学的なる現象に対して深き興味を有する拉甸《ラテン》人種間に伝われる記録及び迷信深き東洋諸民族間に残存せる伝説等に散見するあるのみ。而してその記録なるものも所謂、実見記等の類に非《あら》ず。或る特異の頭脳を有する僧侶、医師等が他人より聞知し、又は探聞し得たる事を記載せる随筆程度のものに過ぎざるのみならず、その記事の十中八九は屍体を使用して人を脅威し、電力を与えて死者を動かし試み、死人を装《よそお》うて悪事を働らく等、その他、迷信的の薬物たる臓器の獲得、埋葬品の奪掠《だつりゃく》、屍姦《しかん》等の事跡の誤認、誤伝せられたるものなるを以て、容易に真相を捕捉し難き憾《うら》みあり。
然れども斯《か》かる屍体飜弄[#「屍体飜弄」に傍点]の事実の古来より存在せる事は疑《うたがい》を容れず。即ち支那、印度《インド》、日本等に於て屍神《ししん》、屍鬼《しき》、もしくは火車《かしゃ》等と称する妖異|譚《ものがたり》の内容を検する時は、この種の夢遊行為……すなわち屍体飜弄が誤伝せられたるものなる事を、自然科学、精神科学等の各方面より推知するを得べし。
而して斯《かか》る事実の詳細に関しては他日「妖怪篇」なる一篇に集積して研究論証す
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